朝はパン

携帯のバイブレーションで目が覚めると、23時半だった。

 

■振動音を頼りに携帯を探している途中、こつん、と本に手が当たる。

 「日常が異世界に変わる」という内容で紹介されていたその本は、寝ている最中に起きてしまった自分と少しだけリンクするような気もした。寝ている状態という日常から、急に現実という異世界に戻る、みたいな。見た夢とか覚えていれば、少しだけと言わず、だいぶリンクするようになるのだろうか。

 栞を挟むこともせずに寝てしまって、どこまで読んだか分からないその本を私の右手が通過し、さらに枕元を漁っていくと携帯が見つかった。留学中のまりえちゃんから着信が来ていた。

 通話をとろうとし、画面の眩しさに一瞬目がくらむ。自分がドラキュラにでもなったような気にさえなる。通話を開始し、まりえちゃんの声がする。お互いの近況を報告する。彼氏は出来ていないらしい。以前冗談のように言っていた(ような気がする)「留学したらあっちでイケメンの外人彼氏捕まえてくる」もまだ成功していないようだ。だけれど、話を聞く限りそこそこモテてもいるらしい。全国まりえちゃんファンの皆さん、今がチャンスですよ。

 寝返りをうつと、急に視界が眩しくなり、一瞬と言わず百瞬くらい目がくらむ。部屋の電球の光りを遮っていた布団がずれた。自分が本当にドラキュラになった気がした。もしくはムスカバルス

 

 通話を終了すると、「ぽけー」と頭が擬音を発しても良さそうなくらい働かない。寝起きに通話してオーバーヒートでもしたのかな。そんなにヤワじゃない気がするけどな、私の頭。ぽけー。

 

 「寝起き状態を脱するには水を飲むと良い」というのは聞いた事があったので、水を飲みに台所に向かう。この時期の水は水道水でも冷たくて美味しい。

 翌日の朝ご飯用に夕方買ってきたパンがテーブルに置いてあったので、食べた。夜食になってしまった。美味しかった。しかし、時計を見ると12時を回っていたので、超早朝ご飯、としてもいいかな、とか下らないことを考えて、咀嚼した。

 夕方の私、ありがとう。美味しいよ。ごめんね、お腹を空かせた明日の私。

 

 オチは無い。おわり。